無駄な感傷などらないから。












破戒












ぐ、と内部を押し広げられる感覚に屑桐は吐き気がした。今この薄暗い部屋の中で起こっていることは現実であり、幻や出来の悪い喜劇でもない。これが夢だったら、と屑桐は思った。そうすればまだいくらか

「どこ見てんすかあ」
「!」

突如、顔面に激痛が走った。生暖かい液体が口端を流れ、半乾きだった肌の上に再び赤い筋をつくる。

「駄目だよ、よそ見しちゃ」

口角だけを上げて笑う、御柳独特の笑い方。途端に胃の辺りがむわりと熱くなり、形容し難い怒りが湧き上がってくる。殺してやる、そう呟いたつもりだったが唇から漏れるのは不明瞭な音声ばかりで言葉にならない。少し喋ろうとしただけで口の中に鋭い痛みが走り、緩く結わえた頤からは透明な唾液が溢れ出た。


「ねえ、キスしようよ。すうっごい濃いヤツ。下ばっかじゃ味気ないしさ」

笑いながら、御柳は長い指で屑桐の顎を掴んだ。ぎりぎりと指を肌に食い込ませ、きつく閉じられた唇を抉じ開ける。柘榴の実のような色をした舌がちろちろと覗き、薄闇の中でそれは酷く扇情的に映えた。
御柳は乾いた舌に自分のそれを絡める。瞬間、屑桐は御柳の舌を食いちぎらんばかりの勢いで噛み付いた。御柳は僅かに眉を顰めて屑桐の頭を引き剥がすと、その儘力一杯壁に叩きつける。鈍い音がして、屑桐はがくんと首を垂れた。
その瞬間、屑桐は自分の内部で蠢く異物が質量を増したのを感じた。霞む視界の中で薄く目を開けると、そこには絶対的な支配者の顔をして微笑んでいる御柳の姿があった。真紅の唇を歪めてにぃ、と嗤う。屑桐はぎりぎりと奥歯を噛んだ。

「あ、その目。イイよ俺すごい好き。マジ興奮するよほら」
「っ、!」

途端に激しくなった律動に、屑桐は息を詰まらせた。あまりの痛みに意識が遠のく。既に荒され傷だらけの粘膜は淫靡に収縮を繰り返し、まるで受け容れる準備をしているかのようだ。屑桐はいよいよ嘔吐感が押さえられなくなった。
所詮お前も一匹の雄に過ぎない、そう嘲られているようで。

御柳が顔を近づけ、屑桐の唇を彩る血液を舐め取った。ぬるりとした感触。くくく、と御柳は低く嗤笑した。

「気持ちいい?ねえ気持ちいいんでしょ言ってみなよ」

自身の先端を強く擦られ、屑桐は沈みかけていた意識を覚醒させた。残っていた力を振り絞って御柳の顔面を強打したが、御柳はますます笑みを深くしただけでそんな抵抗を物ともしなかった。屑桐の体に埋め込んだ自身を更に深く押し入れ固定する。びくんと屑桐の全身が跳ねた。



「……こ、の…変態が……殺してやる、殺して…」
「あっはーいいよ別に。俺変態なのは本当だし。でもアンタも変態だよ、こんなぐちょぐちょにしちゃって」
「う、あ」

自身を緩く扱き上げられ、屑桐は視界が歪むのを感じた。相変わらず御柳は自分の中に居座ったまま断続的な信号を送り続けている。御柳は屑桐の耳元に、至極情欲的な声音を落とした。

「ねえ、認めなよ。アンタ感じてんだよ口でどうこう言ったってさ。諦めりゃ楽になんよ。とっとと落ちなって」

御柳が角度を僅かに変えて欲を捩じ込むと、屑桐は小さく詰まった息を漏らした。懸命に歯を食い縛り、きつく目を紡ぐ。そんな屑桐の様子を嘲笑うかのように御柳は吐き捨てた。


「イけよ」
「…ぐ、うっ!」


一際乱暴に内部を抉る。生理的な痛みに伴うものなのかどうかは判らないが、屑桐の目から涙が伝っていた。

「泣いてんの?なんで?」

御柳は心底不思議そうな口調で問いかけたが、屑桐はその真紅の瞳で自分を睨みつけただけで何も言わない。御柳は一発頬を殴った。屑桐の瞳の奥にちらつく憎悪と嫌悪の光は一層鋭さを増して輝いたが、御柳は意に介した様子もなく律動を早める。

屑桐は御柳の腕を何度も引掻いた。消えゆく炎が一点に収斂し消滅する刹那の、そんな揺らめきを両眼に宿し呪詛を呟く。


「……消え、ろ……っ!」


そのまま、糸の切れた人形のように頽れる。ぴくりとも動かなくなった屑桐の顔を一瞥すると、御柳は屑桐の体内に吐精し自身を引き抜いた。鉄の味がする唇に接吻ける。何の抵抗も示さない様子がどこか滑稽で、御柳は微かに笑った。





どうしてこんな行為をするのか、自分でも判らなかった。少なくとも純粋な愛だの恋だのといった甘い気持ちとは違う。別に恋愛感情を持たずとも性交が出来ることは知っているし、自分の本質を延々と単語の羅列で解釈しようとする程酔ってもいない。













これは、決して。










fin




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